医療DXとは?課題や取り組み事例・国の動向を解説
医療DXとは、病院・診療所や薬局、介護施設などの医療分野におけるデジタル・トランスフォーメーションのことです。医療現場では少子高齢化による人手不足や、業界特有の不規則な働き方、デジタル化の遅れなどの課題が顕著であり、官民連携でのDX推進が急務となっています。
本記事では医療現場のDX課題を解説した後、DXに取り組んだ事例や国の動向を解説します。これからDXに取り組む医療従事者の方の参考になれば幸いです。
目次
医療DXとは?
医療DXとは、医療・介護などの医療現場におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)のことです。DXとは、テクノロジーを活用して業務プロセスや組織体制などを変革し、競争力を高める取り組みを意味します。
たとえば病院の「予約受付」や「処方せんの交付」などの業務で発生する情報・データをクラウドの基盤を通して、対象となる機関や相手に提供します。具体例としては、全国の医療機関と薬局をつなぐ「電子カルテ情報共有サービス」の構築や、「オンライン診療」などが挙げられます。
医療現場では、疾病予防の取り組みをはじめ、病院の受診、診断書の作成、診療報酬の計算と請求、医療と介護の連携など、さまざまな場面で大量のデータが必要です。これらをデジタル技術で連携し、業務プロセスそのものを変革することで、国民の予防医療の推進と、より良質な医療やケアを提供する社会を目指すことが可能になります。
DXで解決すべき医療業界の課題
医療分野のDXが必要な理由について、医療業界の代表的な課題を紹介します。
- 少子高齢化による医療従事者不足
- デジタル化の遅れ
- 不規則な勤務体系や長時間労働による負担
少子高齢化による医療従事者不足
医療業界は、少子高齢化による人材不足が続いています。医療を必要とする高齢者が増え続ける一方で、医療従事者数が追い付いていない現状です。
厚生労働省の「社会保障を取り巻く環境と人々の意識の変化」によると、2008年の1億2,808万人をピークに、日本の人口は減少傾向にあり、2070年には9000万人を切ると予測されています。また、パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」では、2030年の医療・福祉業界では約187万人の人材不足が予測されています。
人手不足は数年で解決できる課題ではないため、ITの力で一人ひとりの労働負担を軽減する医療DXが不可欠です。しかし、すべての業務をITに置き換えることは難しいため、「人間がやるべきこと」と「ITを活用すべきこと」を整理し、さまざまなIT・AIツールと共存することが今後の課題となるでしょう。
人材不足がもたらすリスクや、業種別の対策について、以下の記事もあわせてご覧ください。
デジタル化の遅れ
医療業界は他の業界よりも「デジタル化の遅れが課題」と指摘されています。2023年3月発行の「DX白書2023」(独立行政法人情報処理推進機構)によると、医療・福祉産業におけるDX導入状況は約9%にとどまり、他産業と比較すると大きな遅れが出ていることが明らかになりました。
カルテ、処方箋、問診票などの基本的な業務ですら紙ベースで行われている医療機関が大半を占め、深刻なデジタル化の遅れが課題となっています。
一方、金融業や保険業などでは、オンラインサービスの提供、データ分析の活用、業務プロセスの自動化などが積極的に進められており、業界間で差が出ています。
今後さらなる人口減少が予想される中、医療業界もDX化の遅れを取り戻し、医療従事者の負担軽減、医療サービスの質向上、医療費削減といった課題解決に取り組むことが不可欠でしょう。
不規則な勤務体系や長時間労働による負担
医療業界では、不規則な勤務体系や長時間労働による負担を軽減することが大きな課題です。医療業界の人材不足とデジタル化の遅れが、医療業界の「働き方」問題をより深刻化させています。
特に、救急病棟のような24時間体制の勤務環境で、長時間労働が常態化しており、医療従事者の健康や生活に悪影響を及ぼしています。この現状を課題視した政府は、2024年4月に「医師の働き方改革」の法案を施行し、労働時間の上限規制や時間外割増賃金の引き上げなどの制度を整備しました。
しかし、法改正で労働のルールを厳格化しても抜本的な解決にはなりません。近い将来、人口増加が爆発的に起こるとは考えにくいため、まずはデジタル化への遅れを取り戻し、医療従事者の負担軽減を図る必要があるでしょう。
医療DXの主な取り組み事例
ここからは、医療DXの代表的な取り組み方法を事例とともに紹介します。
ペーパーレス化
医療DXの主要な取り組みとして、カルテ、問診票、処方箋などのペーパーレス化が挙げられます。コンピューターで受け付けた患者情報をタブレット端末に連携すれば、患者の情報を迅速かつ正確に共有可能です。さらに、文書管理にかかるコストと場所の削減にもつながるでしょう。
また、医師や看護師の勤怠管理もペーパーレス化が進んでいます。従来、紙の書類で行っていた経費申請、残業、有給申請などの管理業務もペーパーレス化により負担を軽減できます。
具体的なペーパーレス化の取り組みの成果として、電子処方箋とタブレット端末を採り入れたある薬局の事例を見てみましょう。当該薬局では、電子処方箋とタブレット端末の導入により、次の効果を得られたそうです。
- 処方箋印刷時間を削減し、受付時間を1~2分短縮
- 在宅医療で過去の薬歴情報を持参する負担がなくなり、5~10分短縮
- 薬剤師各自の端末で薬歴記入ができるため、総薬歴記入時間が30分以上短縮
- 経営面では月7000円ほどの紙資源を削減 など
ただし、医療DXに取り組んでも紙が完全になくなるわけではありません。ペーパーレス化とあわせて、画像データに書かれた文字をデータ化するOCRに、AIを搭載した技術である「AI-OCR」の活用や、紙からのデータ入力アウトソースなどの方法も活用すると良いでしょう。AI-OCRと人手によるデータ入力を組み合わせることで、高精度かつ迅速なデータ処理が実現できます。
なお、NTTネクシアでは、紙帳票・データの入力加工作業などの事務代行であるBPOサービスを提供しています。
紙媒体の資料の電子データ化を外部委託するポイントについて、以下の記事でもご紹介しているので、あわせてご覧ください。
オンライン診療
医療DX化により、オンライン診療・予約を導入する医療機関も増えています。LINEやメールなどを用いたオンライン予約を導入すれば、予約や日時変更、キャンセルなどの電話対応の業務を削減できます。予約対応業務がなくなれば、受付スタッフはより効率よく仕事を進められ、患者対応などの業務に時間をあてられるでしょう。
また、オンライン予約を導入すれば、予約のリマインドメールも設定が可能になり、予約忘れや無断キャンセルのリスクも軽減できるのが魅力です。
一方、オンライン診療とは、スマートフォンやパソコンなどを使用して、自宅から医師による診察や薬の処方を受ける診療のことです。患者の体力的・心理的な負担を減らし、受診へのハードルを下げることが期待できます。
オンライン診療を採り入れたあるクリニックの事例では、オンライン診療によって患者の地理的・時間的制約を軽減させ、患者が集中する時間帯を分散させることができたそうです。
なお、オンライン予約やオンライン診療を後押しする医療特化の予約管理システムなどを提供する事業者は多数存在するので、複数の事業者を比較して選ぶことが大切です。
医療情報のデジタル化
医療DXの主要な取り組みの一つである「医療情報のデジタル化」は、医療機関の業務効率化と医療の質向上に大きく貢献します。クラウド上でデータを管理することで、病院、薬局、患者など関係者間の情報共有がスムーズになり、連携強化が可能です。医療情報をデジタル化すれば、患者の情報を迅速かつ正確に把握できるため、適切な診断や治療につなげやすくなります。
また、個人情報の損失リスクを減らし、カルテや診療録の作成・管理にかかる事務作業が効率化され、医療従事者の負担軽減も期待できます。
具体的な事例として、先進的な技術を取り入れたスマートホスピタル病棟のNTT東日本関東病院をご紹介します。当院では、遠隔画像診断システムを導入しており、医師が病院にいなくてもモバイル端末でCT画像等の確認が可能です。また、チャット機能でメンバー間での情報連携や、遠隔地からの具体的な医療指示も可能です。
このようなデジタル化の取り組みにより、緊急時にも遠隔地にいる上級医からの判断・指示を受けながら処置ができます。
参照元:先進的な技術を取り入れた「スマートホスピタル病棟」 | Webマガジン つなぐ
顧客対応のデジタル化(オンライン予約・コールセンター活用)
顧客対応のオンライン予約やコールセンターの活用も、医療DXの取り組みとして普及しつつあります。これらは、人手不足解消や顧客情報の見える化、予約と問診の一体化など、さまざまなメリットをもたらします。
オンライン予約は主にWeb予約やLINE予約などが代表的です。患者履歴が残るため、予約と続けてスムーズにオンライン問診ができるのも強みの一つです。
オンライン予約と外部のコールセンターを活用したDX事例として、NTTネクシアの「集団検診予約受付・勧奨業務」をご紹介します。
「集団検診予約受付・勧奨業務」とは、NTTネクシアが特定健康診査の集団予約健診センター業務を受託するもので、忙しい職員に代わってコールセンター業務を巻き取り、電話やSMSによって受診勧奨を行います。
受診券やはがき、電話受付によるアナログな応対負担をなくし、オンライン予約受付とコールセンター受託の掛け合わせによって医療現場の負担を軽減することが可能です。
医療DXに対する政府の動き
医療DXは、官民ともに注目されているテーマです。2022年5月には、医療分野におけるデジタル・トランスフォーメーションを推進するための政策提言として「医療DX令和ビジョン2030」が自由民主党政務調査会により提唱されました。
ここからは、医療DXに対する政府の動きとして「医療DX令和ビジョン2030」のポイントを抜粋して解説します。
マイナ保険証の利用・電子処方箋の導入
政府は、医療現場のデジタル化を推進するために、マイナ保険証の利用・電子処方箋の導入に力を入れています。2024年秋には、健康保険証を廃止して、マイナンバーカードを「マイナ保険証」として使用開始する見込みです。
また、オンライン資格確認等のシステムを拡充させ「全国医療情報プラットフォーム」を構築することを掲げています。2024年度中に電子処方箋を普及させるため、医療機関への導入支援に加え、患者の理解促進のための情報発信を行っています。
診療報酬改定DX
「診療報酬改定DX」は、2年に1度行われる診療報酬改定に伴う作業を効率化し、医療機関とベンダー負担を軽減することを目的とした施策です。
従来、診療報酬改定のたびに新規項目の追加やコードの修正といった作業が必要となり、医療機関やベンダーにとって大きな負担となっていました。
そこで、2024年度には医療機関等の各システム間の共通言語となるマスタや、電子点数表の改善・提供を進めています。2026年度には、診療報酬の算定と窓口負担金の計算に必要な共通部分をモジュール化した「共通算定モジュール」を本格的に提供し、医療機関やベンダーのシステム開発負担を軽減させる見込みです。
電子カルテ情報の標準化
医療DXの推進において、電子カルテ情報の標準化にも政府は力を入れています。電子カルテ情報の標準化とは、全国の医療機関で共通の形式を用いて電子カルテ情報をやり取りできるよう規格を定める取り組みです。
電子カルテ情報の標準化には、医療の質や患者満足度の向上、医療従事者の負担軽減、医療体制の持続可能性の向上など、さまざまなメリットが期待されています。
政府は、遅くとも2030年までに全医療機関で電子カルテの導入を目指しています。
まとめ
医療DXは、保健・医療・介護の各段階で発生する情報・データを全体最適されたクラウドなどを通して、システム、データの保存の外部化・共通化・標準化を図る取り組みです。医療DXを推進し、国民の予防促進や、良質な医療やケアを受けられるように社会や生活を変革することが目的となっています。
少子高齢化による人手不足、長時間労働、デジタル化の遅れといった医療業界ならではの課題に対し、オンライン診療や電子カルテの導入、診療報酬改定DX、電子カルテ情報の標準化など、さまざまな取り組みが進められています。
NTTネクシアは、医療DXを推進する「次世代型コンタクトセンター」を提供しています。従来のコールセンターによる電話応対をはじめ、チャットやSNSなどのデジタルチャネルを活用しながら医療DXを後押しします。サービスに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。
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